赤旗新聞 天皇の制度と日本共産党の立場 志位委員長に聞く(3)

天皇の制度と日本共産党の立場 志位委員長に聞く(3)

2019年6月4日赤旗新聞【特集】

民主共和制の実現の時期を、特定の社会発展の段階と結びつけない

 小木曽 もう一つ、問題があります。綱領では、「将来、情勢が熟したときに」とありますが、ここでいう「将来」とはいつのことでしょうか。

 志位 綱領には、「将来、情勢が熟したときに」とだけ書いてあり、その「将来」はいつかということを書いていません。書いていないところが大切なところなのです。時期についても、あらかじめ手をしばるようなことをしていないのです。

 以前の綱領では、「君主制の廃止」と民主共和制の実現を民主主義革命の課題としていました。そうしますと、天皇の制度が廃止され、民主共和制にならなければ、日米安保条約の廃棄をはじめ他の民主的改革がすべて達成されたとしても、民主主義革命は終わらないということになります。

 改定綱領では、民主共和制の実現の時期を、特定の社会発展の段階と結びつけることをやめました。改定綱領では、この問題を解決する時期についても、主権者である国民の総意にゆだねるという態度をとっているのです。このことを、第23回党大会での綱領改定についての中央委員会報告では、次のように表明しています。

 「改定案では、天皇制の廃止の問題が将来、どのような時期に提起されるかということもふくめて、その解決については、『将来、情勢が熟したとき』の問題だということを規定するにとどめているのであります」

 私たちは、この課題の解決には、外交、経済、民主主義の改革などと比べて、より長い視野が必要になるだろうと考えています。

 小木曽 将来、日本が社会主義的変革に踏み出した段階で、天皇の制度が存続していることがありうるでしょうか。

 志位 実際にこの問題がどう解決されるかは別にして、綱領の組み立てからすれば理論的には、言われたような段階で存続していることはありうるということになるでしょう。

 かなりの長期にわたって天皇の制度と共存する、共存する場合の原則としては、日本国憲法の条項と精神、とくに「国政に関する権能を有しない」という規定を厳格にまもる、これがなによりも大切になるというのが、日本共産党の立場です。

天皇の制度についての綱領改定がもたらした積極的意義について

現行憲法の「全条項をまもる」とスッキリと打ち出せるようになった

 小木曽 改定綱領が、天皇の制度についての認識と方針の発展を行ったことは、どういう意義があったのか。この点についてお話しください。

 志位 この綱領改定は、日本国憲法天皇条項の分析的吟味の結果から導かれたものでしたが、それは結果として、日本の社会変革の事業をより合理的にすすめるうえで、大きな積極的意義をもつ改定となりました。3点について強調したいと思います。

 第一は、この綱領改定によって初めて、「現行憲法の前文をふくむ全条項をまもり、とくに平和的民主的諸条項の完全実施をめざす」という立場を、綱領のなかでスッキリ打ち出すことが可能になったということです。

 小木曽 綱領で「全条項をまもる」と打ち出したのは04年の改定綱領が初めてですね。

 志位 そうです。前の綱領では、「君主制の廃止」という憲法改正を必要とする課題を掲げていたため、憲法については、「憲法改悪に反対し、憲法に保障された平和的民主的諸条項の完全実施を要求してたたかう」(1961年綱領)とまでしか綱領に書けませんでした。改定綱領では、「全条項をまもる」ということを、初めて明確に打ち出せるようになったのです。

 憲法問題のたたかいの最大の焦点は、憲法9条の改定問題ですが、それを許さないためには、どんな形であれ憲法の部分的な「改正」案の土俵にのらないことが非常に大切です。改定綱領が現行憲法の「全条項をまもる」という立場をスッキリ打ち出したことは、憲法9条擁護を中心とする憲法改定反対のたたかいを発展させるうえでも、大きな力を発揮するものとなったということがいえると思います。

「制限規定の厳格な実施」をより強い立場で打ち出せるようになった

 志位 第二は、この綱領改定によって、天皇の制度への対応としても、「制限規定の厳格な実施」をはじめ、憲法の条項と精神にそくした改革を、より強い立場で打ち出せるようになったということです。

 わが党は、前の綱領の時代にも、現憲法の「制限規定の厳格な実施」という立場に立って、さまざまな改革の提案をしてきました。

 たとえば、1973年1月、日本共産党国会議員団は、国会の開会式の民主的改革を提案しています。この提案は、現在の開会式のあり方が帝国議会時代の反民主的行事のひきつぎであること、開会式での天皇の発言に国政に関する政治的発言がふくまれていたことを批判し、国民主権憲法にふさわしい開会式への改革を求めたもので、画期的な提案として注目されました。わが党は、この提案を行うさいに、将来の政治制度についての党の立場を押し付けるものではなく、現行憲法主権在民の原則と諸条項をもっとも厳格にまもるべきという見地からのものであることを強調しました。

 それでも、綱領に「君主制の廃止」を掲げていたもとで、わが党の提起は「君主制の廃止」の立場からのものと誤解・曲解されることもありました。「共産党イデオロギー的にこの問題をとりあげている」といった不当な攻撃もくわえられました。

 改定綱領では、「君主制の廃止」を削除したことで、そのような誤解・曲解を払拭(ふっしょく)し、不当な攻撃をはねかえして、「制限規定の厳格な実施」をはかるうえで、より強い立場に立てることになったといえるのではないでしょうか。

 小木曽 「共産党のいうことは何でも『天皇制反対』の立場からのものだろう」といった式の議論がいよいよ通用しなくなったということですね。

天皇の制度への是非をこえて統一戦線を安定的に発展させるたしかな展望が開かれた

 志位 第三は、天皇の制度への賛否をこえて、当面の民主的改革のプログラムに賛成するすべての人々との統一戦線をつくり、安定的に発展させることができるようになったということです。

 小木曽 以前の綱領では、天皇の制度と統一戦線はどういう関係だったのでしょうか。

 志位 以前の綱領では、当面の要求を定めた「行動綱領」をのべたうえで、「以上の要求の実現をめざし……民族民主統一戦線をつくりあげる」とされていました。ところが、「行動綱領」のなかには、思想の面での「天皇主義的・軍国主義的思想」を克服するたたかいに触れているだけで、「君主制の廃止」という要求は掲げていません。「君主制の廃止」という課題は、民主主義革命が発展するプロセスの先のほうの段階に位置づけられているのです。そうなりますと、統一戦線の出発点では「君主制の廃止」という合意がないが、途中で「君主制の廃止」を目標にした統一戦線への発展をめざすという複雑なことになってしまいます。

 小木曽 難しい問題になりますね。

 志位 そうですね。改定綱領では、こういう難しい問題が解消されました。天皇の制度に賛成する人も、反対する人も、この問題に対する立場の違いをこえて、外交、経済、民主主義などの民主的改革に賛成する人はみんなで力をあわせて統一戦線をつくり、統一戦線を安定的に発展させるたしかな展望が開かれました。

 小木曽 なるほど。この改定のもたらした積極的意義はきわめて大きなものがありますね。

 志位 そう思います。

制限規定を厳格に実施し、憲法の条項と精神からの逸脱を是正する

天皇の政治利用を許さない――憲法違反の無法ぶりを示した「主権回復の日」式典

 小木曽 先ほど委員長は、「いま、この問題で最も力をそそぐべき中心課題は、『制限規定の厳格な実施』『憲法の条項と精神からの逸脱の是正』にある」ということをいいました。いま問われている問題に対する日本共産党の態度をお話しください。

 志位 まず、「国政に関する権能を有しない」という憲法の「制限規定の厳格な実施」をはかり、天皇の政治利用を許さないたたかいが非常に大切になります。

 明仁天皇の時期をふりかえってみて、最悪の政治利用だったとあらためて思うのは、安倍内閣が、2013年4月28日、「主権回復の日」記念式典を開催し、ここに天皇夫妻を出席させたことです。この日は、サンフランシスコ平和条約日米安保条約によって、日本が対米従属の体制に組み入れられた日であるとともに、沖縄では、平和条約により日本から切り離され米国の施政下におかれた「屈辱の日」とされている日です。政府の計画に対して、国民のなかから批判の声が広がりました。